オーロラ ストーリーズ

自然のままのオーロラが見たい
光害のないユーコンのツンドラ地帯で

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トゥームストーンでのキャンプ生活

ホワイトホースに戻ってから私はレンタカーの手配とキャンプ用品の手配を始めた。寝袋や水タンクなどの大物は、今回のツアーの現地ガイドを努めてくださったTomohiro Uemura さんから借りることができた。そしてホワイトホースのダウンタウンは私のようなアウトドア好きには大喜びの、山岳用品の品揃えが充実している。特に山登りやキャンプに関してはカナダの街で一番ではないだろうか。

私はここで居住性の良いことで評判のMSR Hoop2という3シーズンテントとJetboil SOLという小型ガスストーブを購入。そして日本では見かけたことがない衛星電波を使ったE-Mail端末機「inReachSE」を購入した。これは衛星電話の電波をつかって、英文の短いメッセージをE-mailで送る事ができ、それに自分の居場所を地図で添付できるものだ。SOS信号を送る事もできる。

私は流氷の取材がある関係で、普段からイリジウム衛星電話を使っているが、衛星電話の欠点は、通話状態の悪い時には、居場所と状況など、たったわずかな情報を伝えるのに、なんども繰り返して話すことになり、貴重な電池をそれに費やしてしまうことだ。そしてGPSの位置情報を読み取って伝える連絡では、測地系や数値の表示の仕方で、異なってしまうため、条件がそろっていない誤解が生じることもある。これがメッセージで遅れれば伝達は手短かに正確に伝えられる。また衛星電話もそうだがGPSの電池って結構早くなくなるものだ。救援要請を送るための手段は2つあるに越したことがない。

そしてホワイトホースから給油や補給のためにドーソンシティを経由して、トゥームストーンに向かった。ドーソンからトゥームストーンに向かう「デンプスターハイウェイ」の入り口にはこんな表示がある。
「ここから先、緊急医療サービスはないから、気をつけて運転してください」
ここからのデンプスターハイウェイを走るのには、レンタカー会社でも4輪駆動のSUVを借りる事が条件だった。普通の小型車ではこの道に入らないことが確認事項にある。まあそれはそうだと思う。そもそもツンドラ地帯なんて車で簡単に行けるところではないのだから。

トゥームストーン準州立公園には立派なインフォメーションセンターがある。スタッフはとても親切で、笑顔いっぱいで、おすすめのトレッキングコースや最新のクマの目撃情報などを教えてくれる。このインフォメーションセンターの裏手にキャンプ場がある。

今回はこのキャンプ場を取材の拠点にした。ここのキャンプ場は予約は受け付けておらず先着順でサイトを占有していく。黄色い封筒に1泊12ドルの宿泊料金を入れて封をし、その封筒に着いている半券部分を切り取って、テントサイトの入り口のクリップに挟めば手続き完了だ。

キャンプ場には電気はない、水は川の水のくみ上げだ、「飲用するなら10分はボイルして」と書かれている。トイレは当然ながら下に落とすだけのもの、でもトイレットペーパーはきちんと常備されている。共用の設備として雨天時の調理小屋があり、薪ストーブが中にあり暖もとれる。

それぞれのサイトには駐車スペースとテントスペース、そして数人がつかえるテーブルと椅子、ドラム缶を切ってつくった焚き火スペースがある。いくつかのサイトは川におりられる小道が繋がっている。必要にして十分なキャンプ設備がしっかり整って、自然に負荷を与える余分なものがないキャンプ場だろう。私はすぐにこのキャンプ場が好きになった。

ところが秋のトゥームストーンは、晴れ間が少ないことでも有名な場所だ。美しい紅葉の真っ盛りだが、曇り、霧、曇り、そして雨の繰り返しとなる。晴れ間があっても日中のごくわずかで、夕方にはまた一面の厚い雲に変わってしまう。

そんな天気待ちのキャンプ生活が始まった。

今までの動物写真家人生で天気に対するノウハウや経験は多少なりとも持っている。そして身に付いているのは、「悪化傾向にある天気からはさっさと逃げた方がいい、回復傾向にある天気の時には、とにかく我慢して待つのがいい」ということだ。

今回は、今は悪いがその後に回復傾向にある天気予報だった。問題は、その回復予定が帰国タイムリミット直前だということである。当初は3日間トゥームストーンで粘って最終日の4日目はホワイトホースの近くに移動しているつもりだったのだが、晴れ間があるとしたらこの4日目だ。天気予報はホワイトホースの方がいいのだが、私はこの日をトゥームストーンで迎えることに賭けた。私が見たいのは普通のオーロラではなく、光害のないスペシャルなオーロラだからだ。

自然のままのオーロラが見たい
光害のないユーコンのツンドラ地帯で
  1. オーロラのブレイクアップ
  2. 自然って一緒に見る人数で感じかたが変わる
  3. できることなら光害がないオーロラが見たい
  4. トゥームストーンでオーロラが見たい
  5. トゥームストーンでのキャンプ生活
  6. 「晴れてくれ、晴れてくれ」
  7. 撮影の準備を抜かりなく
  8. 最高のオーロラが現れた

著者プロフィール

小原玲 (動物写真家)

1961年東京都生まれ。群馬県立前橋高校在学中に「第3回高校生フォトグランプリ」(旺文社)のグランプリを受賞したことから写真家を志す。茨城大学人文学部卒業後、写真プロダクションを経て、フリーランスの報道写真家になる。LIFE、TIME、Newsweek、ParisMatch、ASIAWEEKなど世界中の雑誌で活躍する。