オーロラ ストーリーズ

オーロラ大爆発に出会う旅
光が僕を包み込む極上の時間

1

贅沢な時間が始まった

極北の夜空に広がるオーロラを自分の目で見る機会は、そうそうないと思う。多くの人にとってそれは、一生に一度のことかもしれない。

それなのに、僕らが初めて見たオーロラは、ただのオーロラじゃなかった。現地で暮らしていても簡単には見ることのできないオーロラの大爆発=ブレイクアップだった。

カナダ・ノースウエスト準州の州都イエローナイフからおよそ100キロも離れた、ここブラッチフォードレイク・ロッジ。

凍った湖のほとりに立つロッジの上空で、東西に伸びるオーロラの帯がみるみるうちに2本、3本と増えながら形を変え、徐々に本数も分からないぐらいになり、あっという間に夜空全体を覆い尽くしてしまった。

それが突然、うねうねとスピード感たっぷりに動き出し、からみあい、巨人の手のような形になった。

これがブレイクアップなんだ。

音はしない。だけど、遠い遠い上空に巨人の手が現れた時、僕の頭の中で「バフッ」という大きな音が鳴った。

この時、僕らがいたのは、極北の地で生きてきた先住民のテント「ティピ」の近く。

内部の炎でオレンジ色に染まったテントの背後から、巨人の指はまるで地上にあるものすべてを握りつぶそうとするかのように降り注いできた。

今度は、「ムクムク」「ムクムク」という音が頭の中で広がる。

しばらくすると巨人の指は、空からこぼれ落ちる雫のように動き始め、光のカーテンへと変化していく。

「サー、サー、サー」

僕の想像力が作り出した音がまた、頭の中で鳴り響く。光のカーテンとなった巨人の指は、どこまでも夜空いっぱいに広がり続けていった。

ずっと静寂だった。だけど、僕の頭の中ではいろんな音が鳴り続けていた。

実際に耳から聞こえたのは、防寒用の頑丈な靴に踏みしめられた雪が奏でる「グググググ」という音だけ。

ほら、オオカミのような動物が敵を威嚇する時の、警戒心に満ちたうなり声。湿り気のまったくない極北の雪が、そんな音を生み出し続けていた。

ティピに入って一息つく。三角錐のテントのてっぺんには穴が空いている。本来は火の上に肉や魚をつるして燻製をつくる。煙はまっすぐと穴の方へと登っていくため、中にはさほどこもらない仕組みだ。

ティピの真ん中では、薪が真っ赤な炎を上げながらパチパチと音をたてていた。その時、僕が感じたのは、ひどく他愛もないことだった。

何万年か何千年、あるいは何百年前か知らないけれど、遠い昔、ここでオーロラを見た先住民たちの冷え切った体を温めたのも、今、僕の目の前にある炎と同じ暖かさだった、という、ごく当たり前のことだ。

でも、僕には不思議に思えてならなかったんだ。

マイナス30度、40度が珍しくないこの土地で、真っ暗で凍ったこの世界で、薪の炎はなんとちっぽけなんだろう。

でも、屋外にいる人間にとっては、今も昔もこれが最高の暖かさなんだ。

オーロラが広がる上空からは決して見えないだろう小さな小さな炎の熱に身をゆだねながら、僕は過去にこの地でオーロラを目にしてきた数え切れない人々へと思いをはせる。

日本を発ってから17時間。飛行機を乗り継ぎ、やっとたどり着いたブラッチフォードレイク・ロッジ。けっして豪華ではないけれど、最高に贅沢な時間が始まった。

オーロラ大爆発に出会う旅
光が僕を包み込む極上の時間
  1. 贅沢な時間が始まった
  2. 真っ白で真っ平ら
  3. アクティブ&ストーム
  4. カリブーが舞い降りる
  5. 僕の一番のお薦め
  6. 極北の地の移動手段
  7. さらに楽しむ方法は

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

国内の報道機関で記者として政治取材や選挙報道に携わった後、現在は管理職として別分野の事業を担当。一方で、地方勤務時には決して「全国区」ではない地元の祭りなど、歴史や文化の奥深さに触れる取材のために歩き回り、さらに一方では度々カナダを訪れ、その素晴らしさを記事として伝え続けている。